千葉氏の分裂

鎌倉時代も後期にさしかかる文永8年（1271）、幕府は蒙古の襲来に備えて、九州に所領を持つ御家人にその防備を命じた。

千葉氏は肥前国小城郡（佐賀県）に所領を持っていたので、当主の頼胤（よりたね）が兵を率いて九州に赴いた。頼胤は文永の役で受けた傷がもとで九州に没し、跡は長子宗胤（むねたね）が継いで弘安の役に出陣した。しかし、宗胤も30歳で病没してしまい、子の胤貞（たねさだ）が幼少であったため、叔父の胤宗（たねむね）が千葉介（ちばのすけ）の地位（※下総国の千葉氏の通称）を受け継いだ。

成長後の胤貞は肥前の所領のほか、下総国千田荘（多古町）や八幡荘（市川市）などを領したが、千葉介の地位は胤宗の子の貞胤（さだたね）が継承したため、庶流の地位を余儀なくされ、千田氏とも称されるようになる。

この千葉介を継いだ貞胤と、九州千葉氏となった胤貞は、鎌倉幕府滅亡から建武の動乱期に骨肉相食む戦闘をくり広げた。

折しも、鎌倉幕府打倒（1333年）の際には味方同士であった足利尊氏と新田義貞が離反し、それぞれに味方する武士団が各地で争乱をくり返す、動乱の時代が幕を開ける時期であった。

千葉介貞胤は新田義貞に従って北条氏討滅に軍功を上げ、その後も義貞と行動を共にした。

一方、千葉（千田）胤貞は足利尊氏と親近の間柄であった。そして、建武2年（1335）に尊氏が鎌倉で反建武政権の兵をおこすのに呼応し、貞胤の本拠千葉城を攻撃したのである。戦闘は決着がつかず、反対に千葉介側が千田荘内の城を攻めたりもした。

やがて新田義貞が滅ぶと、千葉貞胤は足利方に降り、また千葉胤貞が没したため、千葉介の地位をめぐる争いもひとまず終わりを告げた（1336年）。

千葉胤常と小室

その争乱の一方の主役であった胤貞は、船橋市と深いつながりがある。それは市最北部の小室が、胤貞の所領であったことを示す古文書（写）が残っていて明らかである。中山法華経寺文書の「千葉胤貞譲状」2通で、鎌倉末期元徳3年（1331）のものである。これには胤貞が臼井庄古牟呂村（うすいのしょうこむろむら）の一部を、中山本妙寺（法華寺とともに法華経寺の前身）の日祐（胤貞の養子）に譲与する旨の文言がある。

臼井庄（荘）は佐倉市西部、八千代市北部、船橋市北部にまたがる荘園と推定され、千葉氏の同族臼井氏が開発領主となって成立したものと考えられる。しかし、胤貞の時代のはるか以前に臼井氏は衰退しており、千葉氏が地頭となっていた。

その臼井庄や千田庄の一部を、中山本妙寺・法華寺の貫主の日祐に譲与するというのが先の譲状なのである。この時から本妙寺等は、胤貞流千葉氏の氏寺化したと考えられる。